★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第 1 号 ★☆★ ◆筆跡鑑定について「先生方」が知っておくべき知識とは? |
筆跡鑑定とは、書き手が本人か否かを判定することですが、どのような人間が鑑定 人をしていて、鑑定書はどの程度信用できるのか、費用はどのくらいかかるのか等の 情報はあまり無いように思います。今回はそのあたりについて説明いたします。 私は、遺言書や金の貸し借りなどの民事事件が増えている現実から、弁護士先生は 当然のこと、「先生」と呼ばれ何かと相談される士業の方々は、その概要は知っていた 方がよいと思います。 そこで、守備範囲が広く、忙しく仕事をしている先生方に、「出来るだけ短時間で」 「必要な知識を」、「出来れば退屈しないで面白く読んでいただけるように」筆跡鑑定 のエッセンスをお伝えしたいと思います。ちょっとした余裕時間に気楽にお読み頂け れば幸いです。 筆跡鑑定といえば、元々は警察が中心でしたから、まず、警察や司法は筆跡鑑定を どのようにとらえているのかを説明いたします。筆跡鑑定を、警察や司法では少し幅広 く「文書鑑定」という形でとらえています。 判例では、文書を「文字またはこれに代わる符号を用い永続すべき物体の上に記載し た意思表示をいう」と定義しています。つまり、一般には、文字で書き表したものを 文書と理解していますが、判例では文字に限定せず、符号なども含め、また、文書を 組成する材質も紙に限定していないということです。 そのため鑑定資料も手書き文字や各種の印字をはじめ、印影やスタンプ類、印刷文字 や商標などその範囲はきわめて広く、文書を組成する物体もダンボール箱や風呂敷、 衣類や鞄、金属、プラスチック製品など広範のものが対象になります。しかし、なん といっても文書鑑定の中心は紙に書かれた筆跡鑑定ということができます。 鑑定人としては、警察系の鑑定人が圧倒的に多く、刑事事件は現職の科学捜査研究 所(略して科捜研、県警に所属)と科学警察研究所(略して科警研、警視庁に所属)の鑑定 技師が担当することがほとんどで、民事分野はこれらのOBが自営で鑑定人を営業し ています。裁判所の鑑定人リストには原則としてこれらの方々が載っています。 ◆弁護士が陥る危険な罠 鑑定人リストの基準として、警察OBは元公務員なので身元が信頼できる。民間人 は選別基準が難しいのでと言われているようですが定かではありません。弁護士の先 生としては、裁判官主導で、裁判所リストに載っている鑑定人に鑑定をしてもらった ところ、おかしな鑑定結果であった場合、同じ方式でもう一度鑑定を依頼したら非常 に危険です。 元警察官の鑑定人は、リタイヤ後も緩やかな連帯を保っているようで、仲間が黒と 判定したものを白と分かってもそう書くことはほとんどないと聞いています。事実、 そういうパターンで、一人ならず二人の鑑定人に黒とされてしまって、あわてて私の ところに見えた弁護士先生が数人おられます。 元警察官以外の鑑定人としては、例えば書道家や大学の先生など長年にわたって文 字に携わっていた方々、あるいは、私立探偵や興信所職員など筆跡鑑定に縁のある方々 などです。私は大まかに「警察系鑑定人」と、書道家・大学教授などを「研究人型鑑 定人」、それ以外の方々を「その他の鑑定人」と3分類しております。 私自身は筆跡分野で22年ほど専門的に研究に携わっていますので、「研究人型鑑定 人」であると自認していますし、認められてもいます。そして、私が養成している筆 跡鑑定人も「体系的・系統的に学問として研修」しているので、「研究人型鑑定人」と 認めてよいだろうと考えています。 ◆鑑定人の実力は玉石混合 さて、それでは、それぞれの立場の鑑定人の実力は、ということになりますと、当 事者の一人である私の評価ではいかがかと思いますが、まず、警察系鑑定人は、鑑定 形式などは知っていますが、鑑定そのものの実力は高いとは言えません。 私は、警察系鑑定人の鑑定書に不満の当事者や弁護士の先生から、改めて鑑定依頼 を受け、意見書・反論書と鑑定書を作ることが少なくありませんが、警察系の鑑定は 形式的で表面的な鑑定書が大部分です。覆す可能性は十分にありますから、諦めずに 頑張って頂きたいと思います。 研究人型鑑定人は、人により鑑定形式などは多様な一面がありますが、警察系鑑定 人が持ちえない深い知識のある方がおります。裁判所は警察系鑑定人をやや偏重して いますが、これからの開かれた司法としては研究人型鑑定人の登用が大事なポイント だと思います。 最後の「その他の鑑定人」ですが、これらの方々は優れた方もいるかも知れません が、私の経験からは、鑑定能力としては首をかしげざるをえない方が多いように思い ます。見よう見まねでやっている方も多く、体系的に理解している人は少ないと思い ます。 ◆筆跡鑑定の費用面は 鑑定の費用面ですが、裁判に使う「本鑑定書」は、概ね30〜40万円程度が多く を占めています。裁判に使わない「簡易鑑定」というものもありまして、こちらは書式 を少し簡易にしたものです。業界相場として15万円程度のものですが、私どもで は9万円というコースを用意しています。 民事事件では、遺言書や各種の契約書、婚姻届や養子縁組届、誹謗中傷文書などが 多いのですが、中には脅迫や詐欺など刑事事件につながるものもあります。したがっ て私も刑事事件に係わり、科捜研の鑑定人と対峙することも何度か経験しています。 民事の筆跡鑑定の約半分は遺言書が占めています。「この遺言書は本人の書いたも のではない、偽造だ」などと主張して紛争になるわけですが、実際には偽造は少なく 本人のケースが多いものです。 考えれば分かることですが、6行も7行も人の筆跡を模倣して書くというのは容易 なものではありません。せいぜい、高齢になり本人の筆跡が極めて乱れた場合に、 それを模倣して「全財産を太郎に譲る」程度のものが多いものです。しかし、死亡した 父親の筆跡だとして、ノート10枚以上にびっしりと書かれた偽造文書が提出された こともあり、まさに「事実は小説よりも奇なり」の言葉通りの世界でもあります。 私の経験では、近年は、養子縁組届に偽造が多いようです。これは、養父母あるい は養父、養母どちらかの署名で成立するうえ、しかも大抵は高齢のことが多いので、 届出用紙に一か所、高齢の乱れた筆跡で氏名を偽造すればことが足りるという容易さ が原因の一つでしょう。 ◆遺言公正証書は絶対か これは、遺言公正証書も同じことです。一般に、自筆遺言書は紛糾することがある ので、公正証書遺言が望ましいと言われますが、必ずしもそうとは限りません。遺言 公正証書は、大抵慣れない筆記具で、しかも一回きりの署名ですから、紛糾が無いわ けではありません。 鑑定人の立場からは、「一回だけの署名」に問題の根源があると思います。一回 きりの署名では、そこに筆跡特徴があったとしても、それが本当に書き手の「安定 した筆跡個性」なのか「たまたま生じた形態」なのかの判断はできません。これは、 同じ用紙などにもう一回署名をするという方式にすれば、問題はずっと減少しますし、 鑑定の信頼性も高まるものと考えます。 また、最近は、誹謗中傷文書の鑑定依頼も多くなりました。そのような文書は、書き 手を発見されないように作為を凝らしています。つまり、本来の筆跡とは違う字体に 書いているものです。これを、「韜晦(とうかい)文字」(自分の筆跡を隠蔽するために 変化させた筆跡)といいます。 科警研の元所長で警察系鑑定人の頂点に立つ吉田公一氏の著書『筆跡・印鑑鑑定の 実務』によれば、「鑑定は同一文字、同一書体(楷書対楷書や行書対行書)で行う」と なっていますが、これでは、民事に多い作為のある文字(韜晦文字や偽造文字)は 鑑定できないことになります。 そういうこともあってか、筆跡鑑定は「勘と経験を頼りにしたものであまりあてに ならない」というような見方があるようですが、私としては、そんな頼りにならない ものではないと言いたいのです。この続きは次回にお話します。 「鑑定人ブログ」として別の読み物もあります。 よろしければご覧ください。 http://www.kcon-nemoto.com/journal/ |
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会 株式会社・日本筆跡心理学協会 代表 筆跡鑑定人 根本 寛(ねもと ひろし) 関連サイト http://www.kcon-nemoto.com 事務所 〒227-0043 神奈川県横浜市青葉区藤が丘2−2−1−702 メール kindai@kcon-nemoto.com TEL:045-972-1480 FAX:045-972-1480 MOBILE:090-1406-4899 |