筆跡鑑定 メールマガジン 第5号








★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第5号 ★☆★



◆私の「精密鑑定」の根拠とは

  

   私は「精密鑑定」を標榜しております。何を根拠に精密と言えるのかと言いますと、普通
  の鑑定とはかなり次元が違うからです。筆跡鑑定は、一般に、大別して「字形」と「運
  筆」(筆さばき)で鑑定します。運筆には「筆順」や「筆勢」等が含まれます。その他、細
  かいことが少しありますが、一般に鑑定の中心は「字形」と「運筆」です。


  私は、それに書き手の「人間性」を加えております。昔から「書は人なり」と言われ、筆
  跡には書き手の個性が表れていることは知られています。ただ、一般にどのような筆跡が
  どのような性格と結びついているのか、分からないので活用されていないのです。


  この分野を研究しているのが「筆跡心理学」です。世界的にはグラフォロジー(Graphol
  ogy)と呼ばれ学問の一つとして認められています。特に、フランス、ドイツ、イタリー、
  ベルギーなどの欧州圏で人気があり、特にフランスでは、この分野をマスターした人はグ
  ラフォロジストとして、弁護士などと並ぶ国家資格になっています。


  また、フランスとイタリアでは、この資格がないと「筆跡鑑定」を業として行うこと
  は出来ません。残念ながら、日本では、慶應大学の槙田先生など三人ほどの先生が研究
  していますが、まだ公には認められておりません。しかし、実体としては、筆跡鑑定に
  は大いに役に立つ学問です。私はこの分野を22年ほど研究しています。


  例えば皆さんは、「大」という字を書いたとき、ある人は横線の上に縦画が長く突出し、
  ある人は短く突出するのをどのように理解されるでしょうか。何回書いても同じパターン
  になります。長い人に短く書いてみよ、短い人に長く書いてみよ、と強制しても20字も
  書くうちには元の長さに戻ってしまいます。……これは何故でしょう。


  これは、深層心理の「行動管理機能」によって管理されている姿です。われわれは、自分
  の行動は自覚して行動しているように考えていますが、実は大部分の行動は、深層心理に
  よってコントロールされ無自覚のものなのです。


  ◆筆跡のおおもとは、書き手の深層心理から


  例えば、「今日は○時までに事務所に行く」というような行動は意識で管理していますが、
  玄関のドアをどのように開けたのか、右足から踏み出したのか左足なのか、途中、知人に
  会ったときどのような会釈をしたのかなどの行動は全て無意識の行動です。


  これを筆跡に置き換えれば、例えば「東京都」と書こうということは意識していても、第
  1画はどの程度の長さに書こうとか、ハネはどの程度の大きさに書こうとか等、具体的な
  ありようは一々意識していないわけです。


  意識していないのに何故書けるのか、これは、深層心理……潜在意識といっても違いませ
  んが、それによって管理されている姿です。文字を書くのも行動の一環ですから、この行
  動管理機能によってコントロールされています。


  したがって、文字を観察すれば、書き手のある程度の行動傾向が理解でき、その行動をと
  らせている人間性(深層心理)が把握できるのです。


  この深層心理と筆跡鑑定の関係は、すこし分かり難いので図を使って説明します。図にあ
  る「字形」と「運筆」は並列してあるものではなく、運筆の結果、字形が描かれます。つ
  まり運筆は原因、字形は結果です。しかし、もう一つ掘り下げるならば、人物……深層心
  理が、「運筆の特徴」を生み出していることは明らかです。
  下記リンクで図をご覧ください。
   http://www.kanteininkyokai.jp/magazine/20120605.html


  つまり、すじ道をたどれば、人の深層心理が運筆という結果を生み、運筆が字形という結
  果を生んでいるわけです。このように理解すると、「人の性格こそが筆跡特徴の真の原
  因」だということが分かります。つまり、これこそが「書は人なり」の本質です。


  したがって、一般に鑑定は、結果としての字形の比較をしていますが、真に理解しようと
  すれば、人の深層心理の理解をすることによって、はじめて本当の筆跡鑑定が可能になる
  わけです。私の鑑定は、次元が違うというのはこのことです。


  このようなことで、私の鑑定は一般水準よりかなり高度なものです。これが、精密鑑定の
  内訳です。私は、この筆跡心理学を22年研究し筆跡鑑定に援用していますが、しかし、こ
  れを鑑定書に書き込むことはしておりせん。裁判官に誤解されて、依頼者の足を引っ張る
  ことになっては困るからです。


  ★私の鑑定特徴について説明した動画(15分)があります。よろしければご覧ください。
   http://www.kcon-nemoto.com/analysis/index.html


  ◆ 左手で書いた筆跡を右手の筆跡で鑑定できるか?


  左手で書いた筆跡を右手の筆跡で鑑定できるか?……ということですが、結論は出
  来るのです。平成22年に横浜地裁で争われた、つぎのようなケースがありました。
  脳梗塞になって右手が使えなくなった方が、やむなく左手で遺言書を書いたのですが、
  その後すぐに亡くなってしまったのです。


  偽造だと主張する家族がいて争いになりました。相手からは、別人の筆跡であるとの
  鑑定書が出ていました。後に、担当の弁護士さんから聞いたところでは、「相手から
  やや押し込まれていて、かなり厳しい状況でした」とのことです。


  確かに、この状況は難しい局面といえます。そもそも筆跡鑑定では、「異筆」を証明
  するのに比べ、同筆を証明する方が難しいのです。異筆は、極端に言えば「安定し
  た相違性」が一つでもあれば証明できます。人相と同じで、額、目、鼻、口が類似し
  ていても顎が違えば別人であるのと同じです。


  一方、同筆を証明するには、第1に「安定した類似性があり」、併せて「安定した相
  違性がないこと」が条件になります。ですから、筆跡鑑定の誤りは、同筆を異筆と誤
  って判断するケースが多いのです。


  さて、左手の遺言書のケースですが、この方は60歳代の男性でした。反論書兼鑑
  定書が必要になりましたが、この方は、遺言書を書いてすぐ亡くなってしまったの
  で対照として使える左手の筆跡がありません。やむなく健常時に書いてあった、右
  手で書いた遺言書の筆跡と比較するということになったわけです。


  ◆左手の筆跡と右手の筆跡の一致はあるのか


  まず、左手で書いた筆跡と、右手で書いた筆跡をどのような原理で判断できるのか、
  ということですが、そもそも文字というのは、手が勝手に動いて書いているのではない訳
  です。文字を書くには、第一に、脳の「言語野」に蓄えた文字を想起する必要があり、第
  二に、その想起した文字を運動神経と手が連動して書くという作業になるわけです。


  つまり、文字を書くためには脳に蓄えたデータが基本になり、それは一定のもので
  すから、右手で書こうと左手で書こうと、足にペンを括り付けて書こうと、原理的に
  は同一性のある筆跡特徴が表れることになるわけです。この原理は100年以上前にド
  イツの医師などによって実験で確かめられています。


  左手と右手の違いは、文字を書くという訓練の有無だけで、右手は訓練されていますか
  ら上手に書くことができ、訓練されていない左手はうまく書けないというだけなのです。
  これは、以前、私もあるテレビ番組で証明したことがあります。


  ◆弁護士さんの嬉しい感謝のコメント


  さて、左手で書いた遺言書のケースでは、まず遺言書に「義」という文字がありました。
  当然左手で書いた文字は大きく乱れ、健常時の右手の筆跡と比較しても一般的には同一人
  の筆跡か別人の筆跡かは分かりません。


  しかし子細に観察すると、「第1、2画で作られるV状の角度」が目につきました。書
  道手本などではこの角度は90度程度です。しかし、この方の場合はその角度が約40度と
  相当に狭いのです。新しい遺言書に2文字、旧遺言書に3字ありそれが全てピッタリと一
  致ました。
   http://www.kanteininkyokai.jp/magazine/20120605_2.html


  これは強い同筆要素です。そして同じ筆跡個性が、他に「美」字のV状の部分にも見つ
  かりました。これも新・旧の遺言書に存在し類似しています。ますます同筆の可能性が高
  くなります。しかし、このような角度を狭く書く人はある程度いるはずで、この筆跡個性
  だけで断定はできません。


  そこでさらに調査しますと、同じ程度の強い特徴の一致する文字が3種類見つかり、しか
  もいずれも複数文字の一致です。……ということで、「個人内変動」による偶発的な一致
  ではなく、安定した筆跡個性の一致であると証明することができました。


  ということで、この遺言書の裁判結果は、裁判長は判決は避けましたが、ほぼ勝利判決
  と変わらない内容での和解となり「めでたし、めでたし」となりました。このような、や
  やっこしい鑑定を生かしていただいた弁護士先生の努力と、裁判長の判断に感謝したいと
  ころです。


  このときの弁護士先生からは、その後「私は従来、筆跡鑑定には少なからず懐疑的でし
  たが、根本さんの鑑定で目からウロコが落ちました」との声を聴かせて頂き、鑑定人冥利
  に尽きる思いでした。私としては、ぜひとも、そう言われるような説得力のある鑑定書を
  お届けしたいと日頃から念じているからです。


  ところで、私は、左手と右手の鑑定は、この時が初めてではありません。例えば、嫌がら
  せの手紙などでは、書き手を悟られないようにと作為を施します。いわゆる韜晦文字です。
  このようなケースは何件か鑑定していますが、ある地方で起こった、義姉が、若い美人の
  お嫁さんに対して出した手紙はかなりすごいものでした。この話は次回致しましょう。
                                            この項終わり


 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
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