筆跡鑑定 メールマガジン 第12号








★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第12号 ★☆★



◆楽しくて効果的な筆跡鑑定の研修



  私は、筆跡鑑定人としてほぼ唯一だと思いますが、大手企業で筆跡鑑定の研修を行って
  います。代表的なのは生命保険会社であり、7年ほど前から5社に対してそれぞれ複数回
  の研修を行い、述べ30回程度は行っています。受講者は、契約の管理などの顧客サービ
  ス部門の社員さんです。


  これらの会社は、契約は印鑑不使用で、本人確認は署名によっています。欧米の銀行で
  は、各店ごとに小切手の署名チェックの担当者が居て確かめているそうですが、日本の
  保険会社でも印鑑不使用となれば、何らかの対策が必要になったということです。


  事実、最近、生命保険金の支払いを巡って裁判になっているケースで鑑定書を書きまし
  た。それは、夫が死亡し、奥さんが受け取るべき保険金を、義父が勝手に受取人変更届
  けを出しておいて詐取してしまった事件です。


  私が鑑定書を作った段階では、妻が義父を訴えるという形でしたが、万一、それが否定
  されたら、つぎは、妻は保険会社を「過誤払い」で訴える予定にしていました。その場合、
  保険会社としては「善意の管理者」として通るか否かが問題でしょう。


  私が行った鑑定の実態から見ると、善意の管理者としての管理責任を果たしていると主
  張するのは難しいように思われます。「普通の社会人として、この二つの署名を同一人
  の筆跡と判断したとしたら疑問である」というレベルのように思います。


  ともかく、わが国では、契約の観念が甘いせいか、夫が加入した保険金の契約を奥さん
  が変更しようとするなどは日常茶飯事です。しかし、コンプライアンスの重視などもあり、
  これからは、保険会社に限らず、ガードを固めないとリスクのある業界が多くなりそうです。


  ◆皆、生き生きと研修を受けている


  筆跡鑑定の研修は、前後二部構成で、前半は鑑定の考え方や方法論の理論、後半は実際
  の資料を使って実習をしています。理論編では眠そうな顔も少しは見られますが、実習にな
  ると、仕事に直結していることと、シャーロックホームズ的な面白さもあり、皆、生き生きと受
  講しています。


  前半の鑑定の理論の部分では、筆跡鑑定に対しての裁判所の見解、鑑定の技術的な根拠、
  鑑定の要点、筆跡個性(筆癖)の意味、筆跡の年齢による変化など、鑑定に携わる上で必
  要な基本知識を習得していただきます。


  後半の実習では、マスコミで話題になっているような事件をふくめ、実際の資料の中から、
  署名を取り出し(もちろんプライバシーに十分留意して)、比較して一致点はどこにあるか、
  不一致点はどこかなど、ポイントを指摘しながら質疑応答の形で進めます。


  最初はどこに着眼したら良いのか分からなかった受講者も、段々とポイントを発見でき
  るようになり、自分でも理解力がついてきたことを実感できるようになってモチベーシ
  ョンが高まってくるという状況です。この研修は、結構、受講者に歓迎されています。


  ◆筆跡鑑定のスキルも合理的な教育が可能


  このような研修に対して否定的な見方の人もいます。ある携帯電話会社は、「振り込め
  サギ」などの被害対策からかなり本格的な研修を企画しましたが、担当役員の「筆跡鑑
  定なんてものは、そんな付け焼刃でできるものではないだろう」との反対で中止になっ
  たこともあります。


  しかし、これは浅い考え方だと思います。もちろん本格的な鑑定能力が短時間で身につ
  けられないことは当然です。しかし、どのようなスキルでも教育が無効ということはありま
  せん。筆跡鑑定も変わりません。例えば筆跡の世界では、難しいAランク、中間のBラン
  ク、比較的やさしいCランクと様々なレベルの事件が発生します。


  2〜3時間の研修で対応が可能になるのはCランクです。そして、保険会社で起こる問題
  は、過半数がCランクです。Bランク・Aランクについては、研修前は右も左も分からな
  かった人が、少なくとも、これは専門家の調査が必要だという程度の判断ができるように
  なります。


  そんなわけで、昔からわが国には、職人的なスキルは盗んで身につけるものだとの考え
  方がありますが、それはそれなりの良さもありますが、計画的な教育によって比較的短
  時間でものにすることも出来るのです。


  ◆生命保険会社における研修の効果


  さて、生保で筆跡鑑定の研修をしてどのような効果があったかということです。生保は、
  顧客との関係が10年20年と長期になります。そのような長期間の付き合いになれば、当
  然、様々な契約の条件変更が生じることになります。

  解約や受取人変更など、夫の契約を奥さんが無断で変更しようとするなどのケースはし
  ばしばあります。また、契約時の問題としては、残念ながら保険会社の社員による筆跡
  の偽装ということもあります。契約時に多くの書類に署名をもらわなくてはならないの
  で、一つ位うっかりしていて、さほど罪の意識も無く顧客の署名を偽装してしまうもの
  と思われます。


  このような署名の問題が支払い段階で発覚し、支払不能になったりすると大変です。事
  実、このような問題を含めた不払いが多発して一時は大きな社会問題になりました。今
  は「かんぽ生命」で多くの不祥事が発生しているようです。早くから私の研修を導入し
  たある保険会社は、この手の事件がほとんどないようです。


  大事なことは、筆跡の偽装が表面化すれば、その原因が顧客側であれ会社側であれ、
  その損失はイメージダウンを含めて極めて大きいことです。したがって保険会社としては
  出来る限り、この手のトラブルに対する防止策を取ることが使命になります。その解答
  の一つが、社員に対する鑑定研修の実施なのです。


  ◆筆跡鑑定は重要なリスクマネジメントである


  本部の顧客管理部門で、このような研修がされ、厳しくチェックされていることが社内
  の末端まで周知されると問題は激減します。一つのアナウンス効果ともいえます。これ
  は実際に痛感しています。なぜなら、私が研修を引き受けている会社では、併せて鑑定
  の調査も受けていますので、問題の発生頻度は把握できるからです。


  このような事から、私は、筆跡鑑定の研修は企業の効果的なリスクマネジメントだと理
  解しています。コスト的にも、この手のトラブルが一つ発生しただけでも、調査や善後
  策で100万位の金は軽く飛んでしまうと思われます。それが防止できれば、たとえば、
  仮に100人の社員×2時間の研修の時間コスト、講師への謝礼など併せても数十万で
  しょう。しかもその効果は長期にわたって期待できるからです。


  ◆あるクレジット会社のお粗末な顧客対応


  ともかく、わが国では、契約の観念が甘いせいか、本人確認については隙だらけだと思
  われます。本メールマガジンの11号でお伝えしたクレジット会社の問題もこれからは、
  今までのようないい加減なことでは通用しなくなるだろうと思われます。


  それは、顧客が署名を認めていない「ぼったくりバー」の請求を取り立てた事件です。
  新宿歌舞伎町の、警察も、不法なぼったくりバーと認める、所在も電話連絡もつかなく
  なっている店の請求を取り立てているのです。


  クレジット会社は、カードが真正のものであり、署名があれば払うようにしていると主
  張しているようです。しかし、その案件は、顧客から「自分はカードに署名をしていな
  い。不正使用であるから調査をして欲しい」と内容証明で要求されていたものです。


  クレジット会社は、不正使用を防止するためにカードの裏に署名を求めています。その
  顧客はきちんと実行していました。これは、不正な使用防止を期待したからに他なりま
  せん。ところが、ボッタクリバーの請求書になされた署名は、似ても似つかぬものであ
  り4文字の氏名が全く読めないものでした。


  このクレジット会社は、二重に間違いを犯したことになります。つまり、不正使用の調
  査要請を無視したことと、署名のでたらめなチェックということです。後者については、
  筆跡鑑定についての基礎的な知識があれば防止出来たものと思われます。


  今日、本人確認は、IDやパスワードを始め、生体認証として指紋、静脈、虹彩など 
  色々と考えられています。しかし、IDやパスワードは忘れるという問題があり、生体
  認証は、読み取り装置が必要になるという限界があります。セキュリティと利便性は相
  反する性格のものだからです。


  実際には文字による記録が多いことも考えると、これからのセキュリティには、筆跡の
  活用を検討すべき業界は多いと思われます。筆跡による方法は古臭いようでいて、
  ちょっとした学習によって効果を上げることが可能でコストも安いのです。


  欠点は、指紋のように絶対不二ではないことで、解釈によって同じ筆跡でも結果が異な
  ることがあることです。しかし、疑問が生じた場合、一定レベル以上は、信頼できる鑑
  定人に委ねるなどの対策を講じればその欠点はかなり克服することが出来ます。ぜひ、
  多くの業界でリスクマネジメントの観点から活用を検討して頂きたいと思します。


  次号では、生命保険のリスクに関連して、郵便局の「かんぽ保険」の実際の事件につい
  てお話します。

                              この項終わり


 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
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