★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第13号 ★☆★ ◆恐るべき郵便局長の犯罪 |
今回も、鑑定の現場から、最近の生々しい事件をお伝えします。平成23年の夏から、 24年の春にかけて高田千代子(仮名)さんの依頼で、3件の鑑定書を作成しました。中 身は神奈川県高座郡の某郵便局を舞台にした「かんぽ生命保険」の横領事件です。 かんぽ生命保険は、2007年10月1日の民営化後、職員による多くの不正事件が発覚し、 その件数は、支払請求のあった保険金等不払い80万件、未請求の保険金不払い60万件と 言われ、総務省や金融庁から改善命令が出ています。 それら事件の手口は、営業職員の単独犯のほか、郵便局長がらみの組織的なもので、長 期にわたり反復されている極めて悪質なものと言われています。かんぽ生命保険広報部 の発表によれば、今年に入って、浜松市の浜松領家郵便局の元局長・石川泰三(47)が横 領の罪で浜松東警察署に逮捕されましたが、氷山の一角にすぎないようです。 高田さんのケースも、ほぼ同様の事件で、積立保険や年金型の保険などの、何と10件も の自案で不正が行われています。具体的には、加入して数年間銀行から掛け金を引き落 としされた保険が、加入していないと言われたり、満期になった還付金がとんでもない 少額しか戻らないなどです。その損害額は数千万円になっています。 これらについて、高田さんには事故があり、証券などの一部が見当たらなくなっています。 そこで、保険の申込書などの提示を求めると、本来、高田さんが記入して申し込んだも のではない「偽の申込書」を出してくる。それについて質すと、郵便局長は、言を左右 にして言い訳し、言葉に詰まると怒鳴りつけるなどして話になりません。高田さんは、 やむなく裁判に持ち込んで現在係争中です。 郵便局は、預金の払い出しの際、「ああ、あの人は山田さんちの嫁だ。」などと、融通 性を利かして払い出しをしてくれました。それは、一面利用者にとっては便利でしたが、 考えようではルーズだったわけで、高田さんのケースは、そのような局のルーズさに付 け込んだ事件とも言えるでしょう。 高田さんの事件の鑑定書は、ご本人の保険や年金の契約、ご主人の保険や年金の契約、 三人の子供の積立型保険など、いくつもある案件の中から、三つのケースについて鑑定 書を作成しました。 今回示す鑑定資料は、郵便局が提出してきた「保険契約申込書」ですが、この資料が極 めて疑問です。申込者の名前の筆跡と印鑑が違うのは分かっていますが、複写が極めて 不鮮明なのです。 金融機関などが、資料の一部を見えなくコピーした資料を出すことは見かけますが、今 回の資料は、本人の署名箇所など不鮮明にする必要のない部分まで、黒くされ極めて不 鮮明なものです。警察などでは、鑑定不能というかも知れません。 ◆警察が原本にこだわる一つの理由 警察は、字形や運筆などを精査することは苦手なようで、原則として原本を要求しま す。もちろん、鑑定資料は原本にこしたことはありませんが、字形や運筆を精査すれば 大抵の異同は判断可能なものです。 警察が、原本を要求するのは、指紋などのほか、筆跡鑑定でも、筆順を調べるなどが容 易なことがあります。例えば「田」の字の筆順を調べる時など、第3画を縦画から書く のか、横画から書くのかによって、書き手が特定できることが少なくありません。 第3画を縦画から書くと、筆順は「タテ・ヨコ・ヨコ」(A)となります、横画から始めれば 「ヨコ・タテ・ヨコ」(B)となって、書き手を特定する一助になります。ちなみに、こ の筆順の分布は、当協会の調査によれば、50歳以上・500人で、Aが45,4%、 Bが54,6%と言うことがわかっています。 このような筆順を、字形から調べることもできますが難しいこともあります。このよう な場合、例えばデジタル・マイクロ・スコープ等の機器をつかうと、どちらの画線が後 から書かれたものかが比較的簡単に分かります。そのようなことから、警察では機器に 頼ろうとする傾向があります。もっとも、私どもでもデジタル・マイクロ・スコープは 使っていますが。 それはさておき、資料と鑑定の一部をご紹介します。つぎに示すのが鑑定すべき高田さ んのご主人のかんぽ生命保険の申込書です。赤枠で囲んだ部分が鑑定する氏名。プライ バシー保護のため、お名前の一部を消去しました。 「資料1」
![]() つぎが鑑定書の一部です。お名前の中の一字「明」の文字です。上の段に3つ書いて ある資料Cというのが、ご主人の真筆であり、別の資料から取り出した筆跡です。 下段の不鮮明な2字(資料A4)が保険申込書の偽造された文字です。 ◆当職の鑑定で偽造の実態が明々白々に この文字では、資料A・Cの相違点を3か所指摘しました。aで指摘したのが、「月」字 の第1画の始筆部です。本人の資料Cは「月」字の上部よりかなり低い位置から始筆す る個性的な書き方です。3文字が安定して同じ形状で、恒常性のある筆跡個性であるこ とを示しています。 対して鑑定資料Aは、ごく普通の位置から始筆しています。それも、2字に安定して表 れているので違いは明白です。この1箇所をみても同一人の筆跡と見る人はいないでし ょう。 「資料2」
![]() bで指摘したのは、同じ第1画の終筆部の位置です。高田さんはこの第1画を非常に短 く書き、標準よりも高い位置で終わっています。これも個性的な筆跡個性です。鑑定資 料Aは、ほぼ標準的な長さで、これまた2字に安定して表れ違いは明白です。 つぎに、cで指摘したのは、「月」字の第2画の横画の運筆です。高田さんは下から始 筆して上に丸くドーム型に運筆する個性的な書き方です。鑑定資料Aは、ごく普通の横 線で、これまた明確に異なっています。 他にも違いはありますが、分かり易い箇所に限定しました。指摘した特徴が、資料Aの 2文字と資料Cの3文字にそれぞれ安定して表れています。この3か所の違いだけでも、 資料A・Cが別人の筆跡であることは明白です。 このような内容で合計3つの資料を鑑定しました。いずれも全く疑いのない偽造でした。 私が冒頭に、「神奈川県高座郡」や「横領」などとはっきり言っているので驚いた方も いるかも知れません。しかし、私は、筆跡鑑定人として、偽造の事実をはっきり確かめ ています。その立場から明言しているのです。 多くの人は、かんぽ保険の販売窓口である郵便局や郵便局長がこのような偽造をすると は想像もしなかったのではないでしょうか。 この郵便局長だけの問題だろうと思われるかも知れません。しかし、金融庁から厳しく 行政指導を受けていることから分かるように、かんぽ生命保険のその販売現場の実態は、 内部牽制がなく相当に怖い状態の様子です。 かんぽ保険については、一度書類を点検されることをお勧めします。何故、このような 事件が多発しているのかについて、識者は、組織にコンプライアンスの意識がなく、内 部監査能力が欠如しているといっています。 高田さんは、何回となく行った交渉の経験から、「郵便局は組織ぐるみで騙そうとして いる。総務省にも相談したが、逃げ腰で対応してくれない。結局、国が国民のお金を盗 んでいるとしか言いようがない。私は真実を解明するまではこの戦いをやめる気はな い」と話しています。 以上 |
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会 株式会社・日本筆跡心理学協会 代表 筆跡鑑定人 根本 寛(ねもと ひろし) 関連サイト http://www.kcon-nemoto.com 事務所 〒227-0043 神奈川県横浜市青葉区藤が丘2−2−1−702 メール kindai@kcon-nemoto.com TEL:045-972-1480 FAX:045-972-1480 MOBILE:090-1406-4899 |