筆跡鑑定 メールマガジン 第19号








★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第19号 ★☆★



よい対照資料の選び方


   筆跡鑑定には、鑑定資料と対照資料があります。鑑定資料とは鑑定をすべき資料で
  す。それは、遺言書だろうと契約書だろうと選択の余地はありません。しいて言え
  ば資料は原本かコピーかということです。


   この場合「原本主義」という言葉があるように、原本でなればダメという意見があ
  ります。もちろん資料は原本であることに越したことはありませんが、一部の関係者
  がいうほど原本でなければならないということはありません。


   原本の利点は、例えば顕微鏡にかけるとインクの種類の違いが判るとか、「十」の
  ような交点のある文字では、やはり顕微鏡検査で、どちらの線が後から書かれたもの
  か、つまり筆順の違いが分かることがあるという程度です。


   例えば筆順は、運筆の痕跡によりかなり程度明確になるものです。無数の不特定者
  の中から犯人を捜す刑事事件と異なり、ほとんどは、二つの資料が同一人によって書
  かれたものか否かを調べる民事事件ではそれほどの違いはないと言えます。


   問題は対照資料の選択ということになります。対照資料は、状況によっては多種に
  わたることもあります。しかし、鑑定書をまとめる上では、あまり多すぎてもかえっ
  て焦点がボケてしまうものです。また、鑑定書の紙面の制約も多少は考えないといけ
  ません。


   しかし、対照資料が一つというのも、鑑定の精度から問題です。一文字では、ある
  特徴があったとしても、それが本当に書き手の筆跡個性なのか否かは明確には言えま
  せん。たまたまの結果かも知れないからです。


   そこで、対照資料の数としては2〜4字あたりがベストといえます。2文字以上に
  ある筆跡特徴が表れているとすれば、それは書き手の恒常性のある筆跡個性である確
  率は高くなります。


   余談ですが、遺言書について、自筆遺言書は揉めることも少なくないので公正遺言
  書証書が望ましいと言われます。概ね間違いではありませんが、公正遺言証書だから
  全く揉めないというものでもありません。それは、大抵の場合、馴れない筆記具で署
  名をしているため、日頃の筆跡と異なって見える人が少なくないからです。


   これは、養子縁組届や婚姻届などにもいえることで、2回署名する方式にすればト
  ラブルは圧倒的に少なくなると思います。


   さて、対照資料ですが、当然、鑑定資料と比較できる同じ文字があり、できれば書
  体……楷書と楷書あるいは行書と行書というように揃っていることが望ましいといえ
  ます。その上でつぎのような諸点に留意されると良いのです。


   資料の性格として、相手方から、拒否されたりしない出所の明確な資料……つまり、
  日付が明確であり、その資料の信頼性が高く、当事者であることに疑いのないものと
  いうあたりです。その意味で、公的機関や銀行との契約書などは良い対照資料です。
  逆に、チラシの裏のメモというようなものでは、問題の生ずることが多くなります。


   これは、弁護士の先生ではなく、一般の方へのアドバイスですが、遺言書の対照資
  料として、分厚い日記帳や手帳を示されることがあります。これは、鑑定上不都合で
  はありませんが、分厚い資料から文字を探出すのは時間がかかります。


   もちろんも私としては、それはやぶさかではありませんが、一応、専門職として時
  給単価は家庭の主婦よりは高いのです。そういう人間にそのような仕事をさせると、
  結果として鑑定費用が高くなります。少しでも費用を節約したいのなら、そういう作
  業は、依頼者がおやりになって、付箋を貼って提出していただくのが良いのではない
  かと思います。


   以前、父親の遺言書の紛争で、対照資料としてノート20枚ほどにびっしり書かれ
  た日記が提出された事案がありました。亡くなった父親はノートを日記帳代わりにし
  て、1枚に1週間ずつ小さな文字でびっしり記載していたのです。


   このケースは偽造を疑われていて、筆跡の異同判断が極めて微妙な難しいものでし
  た。このような難しい事案では、多くの文字で確かめる必要があります。一般的な鑑
  定は10文字も鑑定すれば、間違いのない結論が得られるのですが、このようなケー
  スでは20字くらい調査する必要がありました。


   20字を一字当たり3個ずつ拾い出すとしてもたいへんな数になります。依頼者の
  ご協力が欲しいというのはこんなケースです。


   これも、アマチュアの方への忠告ですが。ある依頼者は、鑑定すべき氏名の文字だ
  けを切り抜いて送ってこられたケースがありました。とりあえず、氏名の文字が揃っ
  ていて、片方は鑑定資料、片方は対照資料と分かっていれば異同の判断はできますが、
  鑑定書にはつくることはできません。


   何の資料でいつのモノということが分からなくては、鑑定書としてまとめることは
  できません。ですから、どうしても表ざたにしたくない文字は黒ぬりされるのは構い
  ませんが、資料は切り抜いたりしないで、そっくり全体を送っていただきたいのです。


   資料とは少し異なりますが、私どもの鑑定では、「漢字」「ひらがな」「カタカ 
  ナ」「アラビア数字」「アルファべット」「英文署名」「その他の記号」を扱ってい
  ます。「ひながな」は、手紙などでは多数書きますので、仮に偽造などの意図があっ
  てもその意図が及ばないことが多く鑑定上貴重です。


   今回は弁護士の先生には、やさしすぎて物足らないかも知れません。新年ですので、
  ぼちぼちと進んでいきたいと思います。

                                 この項終わり


 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
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