知らないと損をする筆跡鑑定の話 第37話





【「印影鑑定」の注意点とご提案】




  私の鑑定事務所では、「印影」の鑑定も行っています。一般には「印鑑鑑定」とも呼
 ばれますが同じものです。スキャナーやデジタル顕微鏡など機器の運用技術の高い、ス
 タッフの「柳谷」が機器の操作を担当し、私・根本が監修をして協力して行っています。

  印影鑑定は、近年のコンピュータや光学機械の発達もあり、鑑定水準が向上していま
 すが、いまだに旧式で水準の低い鑑定書を見ることも少なくありません。弁護士の先生
 方は、誰に相談するのがよいのかと頭を悩めることもあるのでないかと思われます。

  私どもは、筆跡鑑定と同じく、「他に卓越した鑑定書」を追及し、日夜、技術の研鑚
 に努力していますが、その立場から日頃考えていることをお話いたします。

  その一つは、印影鑑定は、普通、紙にプリントされた印影を用いて行うわけですが、
 そうではなく、本物の印鑑を使って鑑定すれば極めて精度の高い鑑定ができるというこ
 とです。つまり、対照する「印影」を「本物の印鑑」に切り替えて、「疑問の印影」 
 (鑑定資料)と比較検証を行うならば、鑑定水準は、印影同士で鑑定するよりも数段高い
 ものになるということです。

  もちろん、これは本物の印鑑を貸与して頂くということになり、実際には難しい問題
 がありますが、印鑑鑑定で争っている場合、より強い鑑定をするための方法論として、
 知っておいて損はないと思います。

  本物の印鑑を使った鑑定は、どれほど明確な結果が得られるのか、また、それ以外の
 留意点について、以下、担当者・柳谷から説明させます。


  ■マージナルゾーンの判断の重要性

  印影鑑定(印鑑鑑定)を担当しております、柳谷と申します。業務上、他所の印影鑑
 定書を見る機会がありますが、その中には、ときに杜撰と感じる鑑定書を見かけます。
 そう感じるいくつかの理由がありますが、今回はその中から、「マージナルゾーン」の
 扱いについてと、もう一つ資料の質について少々ご説明させていただきます。どうぞ下
 記画像を見ながらお読みください。なおこの項では、印鑑について「印顆」の呼称を使
 います。
  印影鑑定についての画像はこちら

  「マージナルゾーン」とは、印顆の押印面の凸部である、「外周部の輪郭線」と「字
 画線」に付着した印肉が、押印の際に凸部と紙面の間から横漏れをし、輪郭状に現れる
 ことを指します。その結果、実際の印面と形状が異なる、また線が太く現出する等が生
 じます。この「マージナルゾーン」による差異を、形状の相違とし、異なる印顆による
 印影であると結論付けている鑑定があるのです。

  印影は印肉の付着量、押印の角度や圧力、用紙の吸水性、下敷きとする物の硬さ等を
 原因とし、実際の印面と相違するものです。鑑定では、その相違点の存在を前提としな
 ければなりません。つまり、鑑定ではその相違点を、「異なる印顆によるもの」か、ま
 たは「押印時の状況による変化の範ちゅう」なのかを判断しなければなりません。

  鑑定人であれば、このような相違点の存在は当然理解しているはずですが、中には前
 出のように「マージナルゾーン」を誤解?して捉えて判断している例もあります。(果
 たして本当に誤解なのかは分かりませんが…)


  ■印影鑑定に使用する資料についての留意点

  つぎは、資料についての注意点です。鑑定資料は押印された原本が望ましく、異同を
 判断するための対照資料は、実物の印顆がベストです。「マージナルゾーン」が双方に
 生じている印影同士を照合するより、高い精度で確かめることが可能だからです。
 
  印影同士の照合ですと、「マージナルゾーン」以外にも印影の欠損など、押印時の状
 況による変化が現れ、実物の印顆の印面と相違することが多々あります。
 
  また実物の印顆があれば、印肉の付着具合や押印の圧力を変えるなどをして、押印状
 況による変化を擬似的に作った印影をいくつか用意して、鑑定資料と照合することも可
 能になります。

  対照資料として、実物の印顆が不可能ならば、つぎに信頼性が高いのは「押印された
 原本」です。さて、そうなるとコピーでは鑑定はできないのでしょうか?

  たしかにコピーでは印影が荒く、倍率誤差の可能性もあり、寸法や線の太さ等の数値
 的な信頼性が落ちることは確かです。複写機の大手メーカーの関係者によると、最大3
 %の倍率の誤差があり得るとのことです。

  しかし、コピーによる印影であっても、輪郭線や字画線の形状を比較することは可能
 です。ただし、「マージナルゾーン」を判断するには、白黒コピーではなく、色の階調
 (トーン)が表現されるカラーコピーが適しています。

  なお対照資料としてよく用いられる「印鑑登録証明書」の写しですが、これはスキャ
 ンした デジタルデータを印刷したものでから、本質的にはコピーと変わりません。

  ちなみに一般的なオフィスで使われる複合機のコピーの精度は300〜600dpi
 です。これは1インチ(2.54cm)の幅の中に300〜600の画素があるということで
 す。600dpiでは理論上、1画素が0.042mmとなります。

  当方では印影をデジタル化して取り込む際は、4800dpi以上で行います。理論
 上の1画素は0.01mm以下になります。


  ■印影鑑定を有利に進めるために

  以上、申し上げたことをまとめますと、より精度の高い印影鑑定のためには、対照資
 料は「実物の印顆」が最も望ましく、そうでなければ、鑑定資料であれ対照資料であれ、
 出来るだけ「原本」が望ましく、それが難しい場合には「白黒コピーよりはカラーコ 
 ピー」の方が望ましいということになります。
      
  つまり、係争相手が白黒コピーで鑑定書を出してきたとしたら、こちらは、カラーコ
 ピーを使うこととにより、より精度の高い鑑定書であることを主張することが可能にな
 ります。

  相手がカラーコピーで鑑定してきたら、こちらは原本を使うということで、より精度
 の高い鑑定書であると主張することができ、さらには、相手が原本で鑑定してきたら本
 物の印顆を使うことで、より強力な鑑定になり、裁判官への説得力を高められるという
 ことになります。

  また費用はかさみますが、対照とする資料が複数あれば、さらに説得力を増すことが
 できます。複数資料を観察することにより、押印時の状況によりどの程度の変化が現れ
 るのか、「変動の幅」を捉えることができるからです。

  その「変動の幅」を明らかにして、鑑定資料と比較照合することにより、押印時の状
 況による差異であるのか、それとも、印顆そのものの違いなど偽造によるものかを判断
 することができるわけです。

                                 この項おわり




 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
東京都弁護士協同組合特約店
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